この記事の要点
- 相続した不動産(実家・土地・アパート・駐車場・畑など)の選択肢は、大きく「売却」か「活用」かの2つです(売るか、手放さずに活かすか)。
- 「売るしかない」と言われた不動産でも、立地や金融機関の考え方しだいで活用できることがあります。
- 決める前に、売却した場合の手取りと、活用した場合の収支を同じ前提で並べること。税は税理士、登記は司法書士に確認しながら進めます。
対象読者:不動産を相続した、またはこれから相続する見込みの方(親の代の不動産をどうするか考え始めた30〜40代の方など)
情報の基準日:2026年10月10日時点の法令・統計に基づきます
著者:株式会社AnRoom 代表取締役 内田博辰(宅地建物取引士)
「親から受け継いだ不動産、どうしたらいいんだろう」「次の世代にどうやって不動産を引き継いだら良いんだろう」。相続の相談は、たいていこの一言から始まります。
不動産会社に行けば「売却しましょう」、ハウスメーカーに行けば「建てましょう」と言われ、どれが自分に合っているのか分からなくなる。さらに、取引のある銀行に相談しても、お金を借りることを前提とした不動産購入をはじめ、金融商品(保険・信託サービス)の契約や、高額な相続シミュレーション、遺言書の作成・保管料などをすすめられ、「本当に自分に必要なのだろうか」とモヤモヤを抱えてしまう方も少なくありません。
そんな方のために、横浜・元町の不動産会社AnRoomが、売却か活用かの考え方を整理しました。
1. 結論:選択肢は「売却」か「活用」かの2つ
結論:相続した不動産の選択肢は「売却」か「活用」かの2つです。どちらがよいかは、立地・家族のライフプラン・分け方・資金・管理の手間で決まります。
不動産の「活用」とは、相続した不動産を手放さずに、貸す・建て替えて貸す・駐車場として使うなどして、収入や価値を生み出し続けることです。
| 比べる点 | 売却 | 活用 |
|---|---|---|
| お金の入り方 | まとまった現金が一度に入る | 家賃などの収入が毎月続く |
| 相続人が複数のとき | 現金で分けやすい | 持ち方・分け方を話し合う必要がある |
| 手間 | 査定・片付け・測量など、売却までの準備 | 入居者募集・管理・修繕が続く(委託もできる) |
| 主なリスク | 売り時を逃す、税の特例を使い損ねる | 空室、修繕費、借入れの返済 |
| 向いているケース | すぐに現金化したい方。 ・相続税の納税資金にできる ・現金で均等に分けることができる | 借り手が見込める立地で、長く持つつもりの方。 ・毎月の安定収入が見込める ・次世代に権利を引き継げる |
「とりあえず置いておく」は、選択肢というよりまだ決めていない状態です。空き家のまま置いておくと、建物の傷みや近隣とのトラブルに加え、管理が不十分な空き家として市から勧告を受けると、土地の固定資産税の軽減(住宅用地の特例)が受けられなくなるおそれがあります。
なお、マンションの一室(区分所有)の場合は、建て替えなどの自由が利きにくいため、実際には「売却」か「そのまま貸す」かで比べることになります。
2. 「売るしかない」と言われた借地が、活用できた事例
結論:同じ不動産でも、相談先によって出てくる答えは変わります。「売るしかない」と言われても、別の角度から見ると活用できる場合があります。
AnRoomで実際にお手伝いした事例。
ご相談の内容
- ご両親が他界されたご実家(借地権付き建物)の相続です。お寺の土地を借りて建てた家(旧借地法の借地)で、広さは100㎡に満たない小さな土地でした。
- ご相談者(40代)は、いくつもの不動産会社を回り、どこでも「売るしかない」と言われていました。理由は「借地権では、借入れができる金融機関がない」というものでした。
AnRoomの見立て
- 駅に近く、単身者向けの賃貸需要が見込める立地でした。
- 借地権の土地でも融資を検討する金融機関があることから、アパートを建てて貸すプランをご提案しました(金融機関のご紹介と融資申込みのサポート。融資の可否・条件は金融機関が判断します)。
その後
- 約20㎡の1Kの部屋に、収納を工夫した間取りでアパートが完成しました。相談から引き渡しまで約1年半です。
- 売却していれば約2,000万円だった借地権が、月約20万円の家賃収入(満室時・借入れの返済などの支出前の概算)を生む資産になりました。
もちろん、すべての不動産で同じことができるわけではありません。地主との関係、建物の条件、借入れの見通しで結果は変わります。それでも、「売却」以外の答えを一度は並べてみる価値がある、というのがこの事例から伝えたいことです。
3. 売却か活用か、ひとりで決めなくて大丈夫です
結論:売却か活用かは、ひとりで答えを出す必要はありません。「いくらで売れるか・貸せるか」「借入れはできるか」「ご家族がどうしたいか」の3つの材料がそろうと、答えは自然に見えてきます。
ご相談に来られる方の多くは、最初は「何が問題なのか」「誰に何を聞けばいいのか」も分からない状態です。それで大丈夫です。売却か活用かを決めるには、次の3つの材料が必要ですが、どれもひとりではそろえにくいものだからです。
① その不動産が「売却したらいくら」「貸したらいくら」になるか
査定額と想定の家賃は、同じ前提で並べてはじめて比べられます。売却の会社は売却の金額だけ、建築の会社は建てた場合の収入だけを示しがちで、両方を同じ物差しで見られる機会は意外と少ないものです。
② 借入れができるか
活用できるかどうかは、金融機関の考え方で大きく変わります。2章の事例のように、「借地権では借入れができる金融機関がない」と言われた不動産でも、融資を検討する金融機関がありました。どこに相談するかで、選べる答えが変わります。
③ ご家族のライフプラン
いずれ誰かが住むのか、次の世代に引き継ぎたいのか、現金で分けたいのか。ご家族の思いは、話してみてはじめて整理できることも多いものです。
AnRoomのご相談は、お話をうかがいながら、散らかった情報を一緒に整理するところから始めます。売却と活用を同じテーブルに並べ、比べた資料をお渡しするので、ご家族で話し合うときの材料にしていただけます。売却や活用を前提にしたご相談ではありません。今は動かないほうがよい場合も、正直にお伝えします。だからこそ、「何から聞けばいいか分からない」段階で、気軽にお話しください。
4. 売却する場合に知っておきたいこと
結論:売却するなら、査定の根拠を比べ、片付け・境界・解体の判断を早めに始めます。名義(相続登記)と税の特例の期限があるため、逆算して動きます。
- 査定は複数社に:金額だけでなく、根拠(周辺の成約事例、道路との接し方、土地の形)を比べます。複数社の査定をまとめて取れる不動産会社に依頼する方法もあります(一括査定サイトに申し込むと、多くの会社から営業の連絡が来て、対応が負担になることがあります)。
- 建物付きか更地か:両方の査定と解体費の見積もりを並べてから決めます。
- 境界:隣地との境界がはっきりしないと、測量に時間がかかります。
- 片付け:家財の整理は数か月かかることもあります。
売却するには、亡くなった方の名義を相続した人の名義に変える相続登記が先に必要です。また、親の家を売却する場合は「空き家の3,000万円特別控除」という税の特例が使えることがあります。どちらも期限があるので、登記は司法書士、特例を使えるかどうかは税理士に早めに確認しましょう(期限と一次情報は、この記事の下の「根拠データ」にまとめています)。
5. 活用する場合に知っておきたいこと
結論:活用には、そのまま貸す・建て替えて貸す・駐車場のまま使うなどの方法があります。収支、管理、将来売却するときのことまで含めて比べます。
主な活用の方法は次の3つです。
| 方法 | 特徴 | 気をつけたい点 |
|---|---|---|
| そのまま貸す | リフォーム程度で始められ、初期費用を抑えやすい | 古い建物は修繕費がかさむことがある。リフォームローンは金利が高く融資期間も短いため、返済額が高くなる場合がある。建物の減価償却が少ないと、税の面でのメリットも小さくなりやすい |
| 建て替えて貸す | 賃貸需要が見込める立地であれば、長期の安定収入が見込める | 建築費・借入れの返済・空室。専門家による綿密な計画が必要。設計・施工は建設業許可を持つ会社が担当 |
| 駐車場などで使う | 初期費用が小さく、維持管理費も少額に抑えられる。更地なので、売却や建築など次の動きがとりやすい | 収入は小さめ。貸家がないため固定資産税の住宅用地の特例が使えず、税額が高くなる可能性がある |
どの方法でも、共通して確認したい点は次のとおりです。
- 収支:家賃から、リフォーム費・建築費、借入れの返済、管理費、修繕費、空室を差し引いて考えます。
- 管理:入居者対応や修繕の手配を家族で担えないなら、管理会社への委託を前提にします。
- 出口:入居者がいると自宅用としては売却しにくくなるため、将来売却する可能性も考えておきます。
- 税の影響:貸したり建て替えたりすると、売却するときの税の特例が使えなくなる場合があります。活用を始める前に税理士にご確認ください。
また、相続が起きる前から家族で話しておくと、選べる方法が増えることがあります。親御さんがお元気なうちのご相談もお受けしています。
6. よくある質問
Q1. 相続した不動産は、売却と活用のどちらが得ですか?
立地、家族のライフプラン、分け方、資金、管理の手間で答えが変わるため、一概には言えません。売却した場合の手取りと、活用した場合の収入から建築費・修繕費・管理費・借入れの返済を引いた収支を、同じ前提で並べて比べるのがおすすめです。
Q2. 借地を相続しました。売るしかないのでしょうか?
売るしかないとは限りません。借地の上にアパートを建てて貸す方法もあり、借地権の土地でも融資を検討する金融機関があります。ただし地主との関係や契約内容によってできることが変わるため、権利関係は弁護士・司法書士に確認しながら、売却する場合と活用する場合を比べます。
Q3. 相続登記をしないと不動産は売却できませんか?
売買契約は登記の前でも締結できますが、買主に名義を移すには先に相続人への相続登記が必要なため、登記なしでは売却はできません。登記の手続きは司法書士に相談し、売却の準備(査定・片付け)と並行して進めると、期限にも間に合わせやすくなります。
Q4. 古い家は解体してから売却したほうがよいですか?
一概には言えません。建物付きのまま売却できる場合もあれば、更地のほうが買主が見つかりやすい場合もあります。解体すると住宅用地の固定資産税の扱いが変わることもあるため、解体費の見積もりと、建物付き・更地の両方の査定を比べて決めます。
まとめ
- 相続した不動産の選択肢は「売却」か「活用」か。まずは2つを同じ前提で並べます。
- 「売るしかない」と言われても、立地や金融機関の考え方しだいで活用できる場合があります。
- 名義(相続登記)と税の特例には期限があります。登記は司法書士、税は税理士に早めに確認します。
相続した不動産のご相談
株式会社AnRoomは、不動産会社の立場であることを前提に、売却・活用を一つの窓口で比べてご相談いただけます(売却、賃貸の募集と管理、建て替えの計画づくり、金融機関のご紹介・融資申込みのサポート、火災保険・生命保険の見直し)。相続税額の計算・申告や特例を使えるかの判断は税理士、登記は司法書士の業務のため、必要に応じて専門家をご案内します。一般的な制度の内容であれば、ご相談の中でお伝えすることもできます。設計・施工は建設業許可を持つ会社が担当します。
元町の事務所はカフェを併設しています。「ちょっと聞きたいんだけど」という気持ちで、気軽にお立ち寄りください。
- お問い合わせフォーム:https://anroom0804.net/contact/
- お電話:045-225-8501(受付時間 10:00〜18:00/不定休)
ご相談の流れ:①お話をうかがい、名義と期限を確認 → ②売却した場合の価格と、活用した場合の賃料・収支の目安を算出 → ③売却・活用の比較をお渡しし、ご家族で検討
ご用意いただくとスムーズな資料:登記事項証明書、固定資産税の納税通知書、建物の建築時期がわかる書類(借地の場合は土地の賃貸借契約書)
根拠データと制度の一次情報(2026年10月10日時点)
ここからは、本文の根拠となる統計・制度を一次情報のリンクとともにまとめています。
相続後の主な期限
- 相続放棄:相続の開始を知ったときから3か月以内に家庭裁判所へ(裁判所)。相談先は弁護士・司法書士。
- 相続税の申告・納税:亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内(国税庁 No.4205)。相談先は税理士。
- 相続登記:2024年4月1日から義務化。取得を知った日から3年以内で、2024年3月以前の相続で未登記のものは原則2027年3月31日まで。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料(法務省)。相談先は司法書士。
- 親名義の不動産がわからないとき:2026年2月2日に始まった「所有不動産記録証明制度」で、亡くなった人名義の不動産の一覧を法務局に請求できます(法務省)。
- 空き家の3,000万円特別控除:相続した親の家などを一定の要件で売却したときの譲渡所得の特例。現行では相続した年の3年後の12月31日まで、かつ2027年12月31日までの売却が対象(国税庁 No.3306)。国土交通省は4年延長(2031年末まで)を要望していますが、2026年10月10日時点では決まっていません(要望)。使えるかどうかは税理士へ。申告に使う「被相続人居住用家屋等確認書」は横浜市 建築局住宅政策課(045-671-4121)が交付しています(横浜市)。
相談先は、相続税は税理士、登記は司法書士、相続放棄や権利関係は弁護士・司法書士、売却・活用は不動産会社と分かれます。AnRoomでは不動産のご相談を窓口に、必要に応じて専門家をご案内します。
横浜の不動産をとりまくデータ
- 空き家:横浜市の一戸建ての空き家のうち約77%が、賃貸用・売却用などではない、使い道の決まっていない空き家です(令和5年住宅・土地統計調査)。
- 地価:神奈川県の令和8年地価公示(2026年1月1日時点)では、住宅地の平均変動率が+3.4%で5年連続の上昇でした(神奈川県)。価格は立地や建物の状態で大きく変わります。
売却・解体に関わる制度
- 低廉な空き家の仲介手数料の特例:売却価格が800万円以下の空き家などは、事前の説明と合意のうえで、仲介手数料の上限が30万円(税別)まで認められます(2024年7月1日施行、国土交通省)。
- 横浜市の住宅除却補助制度:2000年5月末以前に着工し、耐震性が低いと判断された木造住宅などの解体費を補助します(旧耐震の建物は上限50万円)。交付決定の通知前に解体の契約・着工をすると対象外で、令和8年度の受付は2026年12月28日まで(予算の状況で早く締め切られる場合あり)。問い合わせは横浜市 建築防災課 耐震事業担当(045-671-2943)(横浜市)。
借地について
- 1992年8月1日に借地借家法が施行され、それより前に設定された借地権には、更新などについて旧借地法の考え方が引き続き適用されます(e-Gov法令検索 借地借家法 附則)。個別の権利関係・契約内容の判断は弁護士・司法書士にご確認ください。
著者
著者:内田 博辰(うちだ はくしん)
株式会社AnRoom 代表取締役。宅地建物取引士
株式会社AnRoom(アンルーム)
〒231-0861 神奈川県横浜市中区元町5丁目206-4 2F/TEL 045-225-8501
宅地建物取引業 神奈川県知事(2)第31405号
代表者:内田博辰
更新履歴
- 2026年10月23日:初版を公開(情報の基準日は2026年10月10日。空き家特例の延長・要件緩和は国土交通省の令和9年度税制改正要望の段階)
- 今後の更新予定:令和9年度税制改正大綱の公表時(2026年12月ごろ)、改正法の成立時(2027年3月ごろ)、相続登記の経過措置の期限(2027年3月31日)前
免責事項:本記事は2026年10月10日時点の法令に基づく一般的な情報です(空き家特例の延長・要件緩和は要望段階の内容を含みます)。事例の金額は個別の条件による概算で、同じ結果を保証するものではありません。個別の税額の計算や申告については税理士に、登記については司法書士に、権利関係については弁護士にご相談ください。必要に応じて専門家をご案内します。
出典一覧
相続の手続き・登記
– 裁判所「相続の放棄の申述」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
– 国税庁 タックスアンサーNo.4205「相続税の申告と納税」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm
– 法務省「相続登記の申請義務化について」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00599.html
– 法務省「所有不動産記録証明制度について」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00740.html
空き家特例・売却
– 国税庁 タックスアンサーNo.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
– 財務省掲載 国土交通省「令和9年度税制改正要望事項 空き家の発生を抑制するための特例措置の拡充及び延長」https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2027/request/mlit/09y_mlit_k_07.pdf
– 横浜市「被相続人居住用家屋等確認書の交付」https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/sumai-kurashi/jutaku/sien/akiya/zeikoujo.html
– 横浜市「住宅除却補助制度」https://www.city.yokohama.lg.jp/business/bunyabetsu/kenchiku/bosai/taishin/hojokinshienseido/mokutai/jyuutakujyokyaku.html
– 国土交通省「不動産業による空き家対策推進プログラム」(令和6年6月、低廉な空家等の媒介報酬の特例)https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001749889.pdf
統計・地価
– 横浜市「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計」(第1-1表・第34-1表)https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/yokohamashi/tokei-chosa/portal/kekka/jutaku/r05/jutaku-setai.html
– 神奈川県「令和8年地価公示(神奈川県分)について」https://www.pref.kanagawa.jp/docs/h4k/prs/r6098505.html
借地
– e-Gov法令検索「借地借家法」(平成3年法律第90号)https://laws.e-gov.go.jp/law/403AC0000000090